前回までで、サプライヤーからデータを集める方法を学びました。
さあ、これでCO₂排出量が計算できた!
…でも、まだ終わりじゃありません。
「第三者検証」というステップが待っています。
「検証? 何それ?」
「自分で計算したのに、なんで誰かにチェックされなきゃいけないの?」
「お金かかるの?」
今回は、この疑問に答えます。
第三者検証とは?なぜ必要?
第三者検証の定義
第三者検証とは:
企業が自己申告したCO₂排出量データについて、 独立した外部の専門機関が、 計算方法やデータの正確性を確認・証明すること。
簡単に言えば:
「会計監査」の環境版
です。
なぜ必要なのか?
理由1:EUが要求しているから
CBAM本格適用後(2026年〜)は、 第三者検証を受けたデータの提出が必須になります。
検証なしのデータは受け付けられません。
理由2:信頼性の担保
自己申告だけだと:
- 意図的な過少申告
- 計算ミス
- 恣意的な数字
これらを防ぐため。
理由3:公平な競争
全企業が同じ基準で検証を受けることで、 公平な競争条件が保たれます。
「検証受けてない = ズルしてる可能性」 と見なされます。
誰が検証を受けるの?
CBAM文脈では:
- EU域内の輸入業者が主体
- でも、域外の製造業者(日本企業)もデータ提供が必要
- 実質的には、日本企業も検証体制の整備が求められる
つまり: 中小企業でも、EU向け製品を扱うなら、 いずれ第三者検証が必要になる可能性が高い。
第三者検証のプロセス:5つのステップ
実際にどうやって進めるのか見ていきましょう。
ステップ1:検証機関を選ぶ
選択肢:
大手監査法人:
- デロイト、PwC、EY、KPMGなど
- グローバル対応
- 費用は高め
専門コンサルティング会社:
- 環境・サステナビリティ専門
- 中小企業向けプランあり
- 柔軟な対応
認証機関:
- ISO認証などを行う機関
- 品質管理の延長で対応
- 比較的リーズナブル
選び方のポイント:
- 実績(CBAM対応の経験)
- 費用
- 対応スピード
- サポート体制
ステップ2:事前準備
検証機関に依頼する前に準備すべきこと:
必要な書類:
- 排出量計算書
- 計算の根拠資料
- エネルギー使用量の証拠(請求書等)
- サプライヤーからのデータ
- 算定方法の説明書
データ整理:
- Excelだけじゃなく、根拠となる資料も
- 「誰が、いつ、どうやって計算したか」の記録
- 使用した排出係数の出典
社内体制:
- 検証機関からの質問に答えられる担当者
- 必要に応じて現場確認への対応
ステップ3:検証実施
検証機関が実際に行うこと:
書類審査:
- 計算式のチェック
- データの整合性確認
- 排出係数の妥当性確認
現地確認(場合によって):
- 工場の視察
- エネルギーメーターの確認
- 実際の業務プロセスの確認
ヒアリング:
- 担当者への質問
- 計算方法の確認
- 不明点の解消
所要期間: 初回:1〜3ヶ月程度 2回目以降:1〜2ヶ月程度
ステップ4:指摘事項への対応
検証機関から指摘があった場合:
よくある指摘:
- 計算式の誤り
- データの欠落
- 根拠資料の不足
- 算定範囲の不明確さ
対応:
- 修正して再提出
- 追加資料の提供
- 計算のやり直し
場合によっては: 検証不合格 → 再検証
になることも。
ステップ5:検証報告書の取得
無事に検証が終わると:
検証報告書(Verification Report)
が発行されます。
この報告書に記載される内容:
- 検証の対象
- 検証の方法
- 検証結果(合格/不合格)
- 排出量データ
- 検証機関の署名
この報告書をEUに提出します。
費用はいくらかかる?
一番気になるところですよね。
費用の目安
規模別の概算:
小規模企業(年商数億円):
- 初回:30万円〜100万円
- 2回目以降:20万円〜50万円
中規模企業(年商数十億円):
- 初回:100万円〜300万円
- 2回目以降:50万円〜150万円
大企業(年商数百億円以上):
- 初回:300万円〜1,000万円以上
- 2回目以降:150万円〜500万円
※あくまで目安。実際は検証範囲や複雑さによって変動
何で費用が決まる?
影響する要素:
1. 対象製品の数
- 製品1種類 → 安い
- 製品10種類 → 高い
2. 拠点数
- 工場1つ → 安い
- 国内外に複数拠点 → 高い
3. データの整備状況
- きちんと整理済み → 安い
- ゴチャゴチャ → 高い(工数増)
4. 検証機関の規模
- 大手監査法人 → 高い
- 中小コンサル → 安い
5. 緊急度
- 通常スケジュール → 標準価格
- 急ぎ → 割増
費用を抑えるコツ
1. データを事前に整理 検証機関の工数を減らす = 費用削減
2. 複数年契約 「3年契約で割引」などの提案を受ける
3. 相見積もり 最低3社から見積もりを取る
4. 段階的に対応 最初は主要製品だけ → 徐々に拡大
5. 業界団体経由 団体でまとめて契約すると安くなることも
どこに頼めばいいのか?
具体的な検証機関の探し方。
選択肢1:大手監査法人
代表例:
- デロイト トーマツ
- PwC Japan
- EY Japan
- KPMG Japan
メリット:
- グローバル対応
- 実績豊富
- EU当局からの信頼度高い
デメリット:
- 費用が高い
- 中小企業には敷居が高い
- 柔軟性に欠ける場合も
向いている企業:
- 大企業
- グローバル展開している企業
- 複雑な事業構造
選択肢2:環境専門コンサル
代表例: (具体名は控えますが、「環境コンサルティング」で検索)
メリット:
- 環境分野の専門性
- 中小企業向けプランあり
- 柔軟な対応
デメリット:
- 知名度が低い場合も
- 国際的な認知度は大手より劣る
向いている企業:
- 中小企業
- 初めての検証
- 手厚いサポートが欲しい
選択肢3:認証機関
代表例:
- 日本品質保証機構(JQA)
- 日本海事協会(NK)
- その他ISO認証機関
メリット:
- ISO取得と併せて対応可能
- 比較的リーズナブル
- 信頼性あり
デメリット:
- CBAM特化ではない場合も
- 最新動向への対応スピード
向いている企業:
- 既にISO取得済み
- 品質管理の延長で考えたい
- コストを抑えたい
選び方のチェックリスト
□ CBAM検証の実績がある
□ 費用が予算内
□ 日本語対応可能
□ レスポンスが早い
□ 担当者が信頼できる
□ 契約条件が明確
□ アフターフォローあり
最低3社に問い合わせて比較しましょう。
準備すべきこと:チェックリスト
検証をスムーズに進めるために。
データ関連
□ CO₂排出量の計算書
□ 計算式と計算過程の記録
□ 使用した排出係数の出典リスト
□ エネルギー使用量の証拠(請求書、検針票)
□ 生産量・出荷量のデータ
□ サプライヤーからのデータ
□ 原材料の購買記録
書類関連
□ 組織図
□ 事業概要
□ 製品カタログ
□ 製造プロセス図
□ エネルギー管理体制の説明
□ 過去の環境報告書(あれば)
体制関連
□ 検証対応の責任者を決める
□ 検証機関からの質問に答えられる体制
□ 現地確認への対応準備
□ 社内関係者への周知
その他
□ 予算の確保
□ スケジュールの調整
□ 契約書の確認
□ 守秘義務契約の締結
よくある質問
Q1:毎年検証を受ける必要がある?
A:CBAM対応としては、年1回の検証が基本です。
ただし:
- 初年度は体制構築で時間かかる
- 2年目以降は効率化できる
- データが安定すれば簡易検証も可能
Q2:検証に落ちることはある?
A:あります。
よくある理由:
- データの根拠が不十分
- 計算ミス
- 算定範囲が不明確
- 証拠書類の不足
でも: 修正して再検証すればOK。 一発で通らなくても問題なし。
Q3:中小企業は免除される?
A:CBAM本格適用後は、企業規模に関係なく検証が必要です。
ただし:
- 簡易的な検証プログラム
- 業界団体経由の共同検証
など、負担軽減策が検討されています。
Q4:自社でできないの?
A:「第三者」なので、自社ではできません。
利害関係のない独立した機関による検証が必須。
Q5:検証機関はどう探す?
A:以下の方法で:
- 業界団体に問い合わせ
- 既に取得している企業に聞く
- 「CBAM 検証機関」でWeb検索
- 経産省・ジェトロの情報
検証を成功させるコツ
コツ1:早めに準備
検証は時間がかかります。 提出期限ギリギリではなく、 余裕を持って3〜6ヶ月前から準備。
コツ2:初回は特に丁寧に
初回検証で体制を作れば、 2回目以降はスムーズになります。
最初が肝心。
コツ3:検証機関と良好な関係
敵対的ではなく、協力的に。
- 質問には素直に答える
- わからないことは正直に言う
- 改善提案は前向きに受け入れる
コツ4:記録を残す習慣
日頃から:
- データの出所を記録
- 計算過程を保存
- 担当者・日付を明記
検証時に楽になります。
コツ5:社内の理解を得る
検証対応は、担当者だけでは無理。
- 経営層の理解
- 現場の協力
- 関係部署との連携
全社で取り組む。
まとめ:第三者検証は「必要コスト」
長くなりましたが、要点をまとめます。
第三者検証とは
- 独立した専門機関がCO₂データを検証
- CBAM本格適用後は必須
- 信頼性担保のため
費用
- 小規模:30万円〜100万円
- 中規模:100万円〜300万円
- 大企業:300万円〜1,000万円以上
- データ整理で費用削減可能
選び方
- 大手監査法人 vs 専門コンサル vs 認証機関
- 最低3社から相見積もり
- 実績・費用・対応で比較
準備
- データと書類の整理
- 体制構築
- 早めのスタート(3〜6ヶ月前)
心構え
- 検証は「敵」ではなく「協力者」
- 初回が一番大変、2回目以降は楽
- 避けられないコスト、前向きに対応
次回予告
これで、CBAM対応の基礎シリーズは完結です。
次回からは、応用編:
「業界別のCBAM対応:鉄鋼業界編」
- 鉄鋼業界特有の課題
- 算定の実例
- 業界団体の支援策
- 実際の企業事例
業界別の具体的な対応を解説していきます。
この記事を読んだあなたへ
「検証機関とこんなトラブルが」 「こうしたらスムーズに進んだ」
そんな経験談があれば、ぜひ共有してください。
みんなで知見を積み上げていきましょう。
※この記事は、学びながら発信しています。実際に検証を受けた方の体験談や、検証機関の方からの補足情報があれば、ぜひ教えてください。
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