「CBAM対応、しなきゃいけないのはわかってる。でも、何から始めればいいの?」
前回までの記事で、多くの企業が混乱している現状をお伝えしました。
でも、焦る必要はありません。
いきなり完璧を目指さなくていいんです。
この記事では、中小企業でも今日から始められる「最初の3ステップ」をご紹介します。
高額なコンサルに頼む前に、まずここから。
前提:完璧主義を捨てよう
いきなりですが、大事なことを言います。
「完璧にやろう」と思うと、動けなくなります。
- すべてのデータを揃えてから…
- システムを完璧に整えてから…
- 専門家に相談してから…
そう思っていたら、2026年1月に間に合いません。
大事なのは、「できることから始める」こと。
80点じゃなくて、まず30点でいい。 30点を50点に、50点を70点にしていけばいいんです。
では、その「最初の30点」を取るための3ステップを見ていきましょう。
ステップ1:現状把握 – 「うちは関係あるの?」を確認
やること:3つのチェック
チェック1:自社製品は対象か?
まず、自社の製品がCBAMの対象かどうかを確認しましょう。
現在の対象製品(2026年1月時点):
- 鉄鋼(ねじ・ボルトなども含む)
- アルミニウム
- セメント
- 肥料
- 水素
- 電力
「うちは該当しないな」と思っても、次のチェックへ。
チェック2:取引先はどうか?
直接EUに輸出していなくても、取引先が輸出している可能性があります。
確認すべきこと:
- 取引先はEU向けに製品を作っているか
- その製品に自社の部品・材料が使われているか
- 取引先から「CO₂データを出してほしい」と言われる可能性はあるか
「うちは下請けだから関係ない」は通用しません。
むしろ、サプライチェーンの中にいる企業ほど、データ提供を求められる可能性が高いんです。
チェック3:今後の拡大予測
2026年は6品目だけですが、今後対象は拡大します。
検討されている品目:
- 化学品
- プラスチック製品
- 自動車部品
- 電子機器
「今は関係ない」でも、2〜3年後には「対象になった!」ということも。
判定:3つのパターン
チェックした結果、自社は以下のどれに当てはまりますか?
パターンA:直接影響あり → 今すぐ対応必須。ステップ2、3を急いで進める。
パターンB:間接的に影響あり(取引先経由) → 準備を始めるべき。ステップ2の体制づくりから。
パターンC:今は関係なさそう → でも情報収集は続ける。いつ対象拡大されてもいいように。
このステップのゴール
「うちはどの程度、本気で取り組むべきか」を理解する。
ここが明確になるだけで、次のアクションが見えてきます。
ステップ2:最低限の体制づくり – お金をかけずに始める
やること1:担当者を決める(兼任でOK)
まず、「誰が責任を持つか」を明確にしましょう。
よくある間違い: 「全社で取り組む」→ 結局、誰もやらない
正解: 「○○さんが担当」→ 動き出す
中小企業の現実的な選択肢:
- 既存の環境担当者が兼任
- 総務部門が兼任
- 品質管理部門が兼任
専任で雇う必要はありません。 週に数時間でもいいから、「この人が担当」と決めることが大事。
やること2:基本的なデータ収集を始める
いきなり精密なデータは無理です。
でも、大まかな把握なら今日からできます。
最初に集めるべきデータ:
- エネルギー使用量
- 電気の使用量(電気代の明細を見る)
- ガスの使用量
- 重油などの燃料使用量
- 製品の生産量
- 主要製品の生産数量
- 月別・年間の推移
- 購入している原材料
- 主要な原材料の種類と量
- 仕入れ先
この段階では、Excelで管理するだけでOK。
高額なシステムは要りません。
やること3:社内の意識共有
担当者一人だけが頑張っても、限界があります。
最低限、共有すべき相手:
経営層: 「CBAM対応は、コストじゃなく投資です。やらないと取引を失うリスクがあります」
製造現場: 「今後、エネルギー使用量のデータをもっと細かく取る必要が出てきます。協力をお願いします」
営業・購買部門: 「取引先から『CO₂データを出してほしい』と言われる可能性があります。そのとき慌てないように準備しています」
ポイント:
- 難しい専門用語は使わない
- 「なぜ必要か」を具体的に説明
- 「みんなで協力してほしい」と伝える
このステップのゴール
「誰が、何を、どうやって進めるか」の最低限の枠組みを作る。
完璧じゃなくていい。「とりあえず動き出した」状態を作ることが大事。
ステップ3:外部リソースの活用 – 一人で抱え込まない
ここまで来たら、「外の力」を借りましょう。
「お金がないから、全部自分たちで…」は無理があります。
でも、お金をかけずに使えるリソースも、実はたくさんあります。
活用リソース1:業界団体のガイドライン
多くの業界団体が、CBAM対応のガイドラインを作っています。
例:
- 日本鉄鋼連盟
- 日本アルミニウム協会
- 日本化学工業協会
ここで手に入る情報:
- 業界特有の対応方法
- 排出量の標準的な計算方法
- Q&A集
無料または会員なら無料で手に入ることが多いです。
まず、自社の業界団体のウェブサイトをチェックしてみてください。
活用リソース2:政府の支援策
経済産業省:
- CBAM対応のガイドライン公開
- セミナー・説明会の開催
- 相談窓口の設置
環境省:
- カーボンフットプリント算定支援
- 中小企業向けのツール提供
ジェトロ(日本貿易振興機構):
- 海外制度の最新情報
- 企業向けレポート(無料)
これらは税金で作られた公共リソース。 使わないのはもったいないです。
活用リソース3:低コストのツール
最近は、中小企業でも使える低コストのCO₂算定ツールが増えてきました。
クラウド型の算定ツール:
- 月額数千円〜数万円
- エネルギー使用量を入力するだけで、おおよそのCO₂排出量を計算
- 無料トライアルがあることも
スプレッドシートのテンプレート:
- 業界団体が配布していることも
- 自社でカスタマイズ可能
最初から高額なシステムは不要。 まずは低コストで始めて、必要に応じてアップグレードしていけばOK。
いつコンサルに頼むべきか?
「じゃあ、コンサルはいつ頼めばいいの?」
タイミングの目安:
まだ早い段階:
- 現状把握ができていない
- 社内体制が全く整っていない
- 基本的なデータすらない
→ まず自分たちでステップ1、2を進めましょう。 コンサルに頼んでも、「まず基礎データを集めてください」と言われて終わります。
そろそろ頼むべき段階:
- 基本的なデータは集まった
- でも、精度の高い算定方法がわからない
- 第三者検証をどうすればいいかわからない
- サプライヤーへの依頼方法がわからない
→ ここまで来たら、コンサルに頼む価値があります。 「何を聞けばいいか」が明確になっているので、無駄なコストがかかりません。
基礎知識があるだけで、コンサル費用は大幅に削減できます。
このステップのゴール
「一人で抱え込まず、使えるものは全部使う」体制を作る。
そして、「コンサルに頼むべきタイミング」を見極める。
よくある質問:こんな時どうする?
Q1:「うちは小さすぎて、担当者を決める余裕がない」
A:社長自身が担当でもOKです。
週に1時間でもいい。「情報収集する時間」を確保するだけで違います。
または、外部のパートタイム人材を活用する手も。 最近は、環境・サステナビリティ分野の副業人材も増えています。
Q2:「取引先から『データ出して』と言われたけど、どうすればいい?」
A:まず、何のデータが必要か確認しましょう。
- 製品単位のCO₂排出量?
- 工場全体のエネルギー使用量?
- 購入している電力の排出係数?
必要なデータの範囲と精度を明確にしてから、対応を考えましょう。
そして、正直に「時間がかかります」と伝えることも大事。 無理な約束をするより、現実的なスケジュールを提示する方が信頼されます。
Q3:「お金が本当にない。無料でできることだけ教えて」
A:まずは公的リソースをフル活用。
ステップ1の現状把握 → 無料
ステップ2の基本的なデータ収集 → 無料(既存の資料を使う)
業界団体のガイドライン → 無料
政府のセミナー・相談窓口 → 無料
ここまでは、お金をかけずにできます。
その上で、どうしても必要な部分だけ、少額から投資していきましょう。
Q4:「2026年1月まで、もう時間がない!」
A:焦らず、優先順位をつけましょう。
最優先:
- 現状把握(ステップ1)
- 担当者の決定(ステップ2)
次に:
- 基本データの収集
- 取引先との情報共有
時間があれば:
- システム導入
- 詳細な算定
すべてを完璧にする必要はありません。 移行期間中はデータの精度もある程度許容されています。
まずは「動き出す」こと。 精度は後から上げていけばいいんです。
まとめ:今日からできる「最初の一歩」
長くなりましたが、要点をまとめます。
ステップ1:現状把握
□ 自社製品がCBAM対象か確認
□ 取引先への影響を確認
□ 対応の緊急度を判定
ステップ2:体制づくり
□ 担当者を決める(兼任OK)
□ 基本データの収集開始(Excelで十分)
□ 社内に状況を共有
ステップ3:外部リソース活用
□ 業界団体のガイドライン入手
□ 政府の支援策をチェック
□ 低コストツールを探す
□ コンサルに頼むタイミングを見極め
これだけです。
難しいことは、後から考えればいい。
まず、この3ステップを踏むだけで、「何もしていない企業」から「準備している企業」に変わります。
次回予告:もっと具体的に
次回は、ステップ2の「データ収集」をもっと詳しく解説します。
「カーボンフットプリント、実際どうやって計算するの?」
- Scope1、2、3の違い
- 実際の計算手順
- 使えるツールの比較
- よくある間違いと対処法
お楽しみに。
※この記事は、学びながら発信しています。「ここが違う」「こういう視点も必要」というご意見があれば、ぜひ教えてください。一緒に、より良い情報を作っていきたいと思っています。
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