サプライヤーへのデータ依頼、どうやる?

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前回までで、カーボンフットプリントの計算方法を学びました。

でも、実際に計算しようとすると、大きな壁にぶつかります。

「サプライヤーからデータをもらわないと、計算できない」

自社の排出量(Scope1、2)は自分で把握できます。

でも、原材料や部品の排出量(Scope3)は、サプライヤーに聞かないとわからない。

ここで、多くの中小企業が立ち往生します。

「どうやって頼めばいいの?」

「断られたらどうしよう…」

「そもそも、向こうもわかってないんじゃ…」

今回は、この最大の悩みに答えます。


  1. なぜサプライヤーへの依頼が難しいのか?
    1. 難しい理由1:相手も知識がない
    2. 難しい理由2:力関係がある
    3. 難しい理由3:工数がかかる
    4. でも、やらないといけない
  2. 依頼する前の準備:5つのステップ
    1. 準備1:自社の状況を整理
    2. 準備2:必要なデータを絞る
    3. 準備3:依頼文のテンプレート作成
    4. 準備4:相手の負担を減らす工夫
    5. 準備5:社内の合意形成
  3. 依頼文の書き方:実例とポイント
    1. パターン1:初回の依頼(丁寧版)
    2. パターン2:簡潔版(既に関係性がある場合)
    3. ポイント解説
  4. 協力してもらうコツ:7つのポイント
    1. コツ1:タイミングを選ぶ
    2. コツ2:段階的に依頼
    3. コツ3:「みんなやってます」を伝える
    4. コツ4:Win-Winを示す
    5. コツ5:小さく始める
    6. コツ6:感謝を伝える
    7. コツ7:対価を検討する
  5. 拒否された時の対処法
    1. 対処法1:理由を聞く
    2. 対処法2:「一緒にやりましょう」提案
    3. 対処法3:段階的な依頼に変更
    4. 対処法4:業界団体の情報を提供
    5. 対処法5:上位者に相談
    6. 対処法6:代替手段を使う
    7. 対処法7:取引の見直し
  6. よくある質問と回答
    1. Q1:「そんなデータ、持ってません」と言われた
    2. Q2:「有料になります」と言われた
    3. Q3:「他社からも同じ依頼が来て困ってる」
    4. Q4:「精度に自信がない」と言われた
    5. Q5:小規模サプライヤーが多くて大変
  7. サプライヤー向け記入シート:そのままコピペして使えます
    1. 【基本情報】
    2. 【CO₂排出量データ】
    3. 【計算根拠(わかる範囲で結構です)】
    4. 【備考】
    5. 【記入例:参考にしてください】
  8. まとめ:サプライヤー連携の心得
    1. 依頼する前に
    2. 依頼するときに
    3. 協力してもらうために
    4. 拒否されたら
    5. 最も大事なこと
  9. 次回予告

なぜサプライヤーへの依頼が難しいのか?

まず、現実を理解しましょう。

難しい理由1:相手も知識がない

多くのサプライヤー、特に中小企業は:

  • CBAMのことを知らない
  • カーボンフットプリントの計算方法がわからない
  • 「なんで急にそんなこと言われるの?」状態

あなたと同じ状況です。

難しい理由2:力関係がある

あなたが大手企業の場合:

  • 「データ出せ」と言えば、相手は従わざるを得ない
  • でも、相手は内心不満かも

あなたが中小企業の場合:

  • 「お願いベース」にならざるを得ない
  • 断られても強く言えない
  • 取引に影響が出るのでは…という不安

難しい理由3:工数がかかる

サプライヤーにとって:

  • データを調べる時間がかかる
  • 計算する手間がかかる
  • それに対する対価がない

「なんで無償でやらなきゃいけないの?」

これが本音です。

でも、やらないといけない

厳しい現実ですが:

2026年以降、データがないと:

  • EU向け製品が輸出できない
  • 大手取引先から切られる可能性
  • 自社の競争力が落ちる

やるしかないんです。


依頼する前の準備:5つのステップ

いきなり「データください」は失敗します。

まず、準備が必要です。

準備1:自社の状況を整理

サプライヤーに依頼する前に:

□ なぜデータが必要なのか説明できる

□ どんなデータが必要か明確

□ いつまでに必要か決まっている

□ 自社のScope1、2は既に把握済み

「自分たちも頑張ってます」という姿勢が大事。

準備2:必要なデータを絞る

最初から完璧を求めない。

まずは:

  • 主要な原材料・部品だけ
  • 購入量の8割を占めるものに絞る
  • 「まずこれだけ」という優先順位

段階的に広げていく方が現実的。

準備3:依頼文のテンプレート作成

毎回ゼロから書くのは大変。

テンプレートを作りましょう。

(後ほど具体例を示します)

準備4:相手の負担を減らす工夫

何も用意せずに「よろしく」はダメ。

準備すべきもの:

  • 記入用のExcelシート
  • 記入例・サンプル
  • よくある質問(FAQ)
  • 排出係数のリスト

「これに沿って書けばOK」という状態にする。

準備5:社内の合意形成

営業担当者が困らないように:

□ 経営層の承認を得る

□ 営業部門と事前に相談

□ 「取引への影響」を配慮した依頼文

□ 断られた時の対応を決めておく

全社で取り組む体制が大事。


依頼文の書き方:実例とポイント

では、実際の依頼文を見てみましょう。

パターン1:初回の依頼(丁寧版)

件名:【重要・ご協力のお願い】EU向け製品に関する環境データご提供のお願い

○○株式会社
ご担当者様

いつもお世話になっております。
株式会社△△の□□と申します。

突然のお願いで恐縮ですが、
貴社からご提供いただいている製品・部品について、
環境データのご提供をお願いしたくご連絡いたしました。

【背景】
2026年1月より、EUが導入する「CBAM(炭素国境調整メカニズム)」
という新制度により、EU向け輸出製品について、
製造過程でのCO₂排出量データの提出が義務付けられます。

弊社もEU向け製品を扱っており、サプライチェーン全体の
排出量データを把握する必要が生じました。

【お願い内容】
貴社からご購入している下記製品について、
CO₂排出量データをご提供いただきたく存じます。

・対象製品:[具体的な品名]
・必要なデータ:製品1kg(または1個)あたりのCO₂排出量
・提出期限:○月○日まで
・記入方法:添付のExcelシートにご記入ください

【ご参考資料】
・記入用Excelシート(記入例つき)
・CBAMについての簡単な説明資料
・よくある質問(FAQ)

ご不明な点がございましたら、遠慮なくお問い合わせください。
弊社でもできる限りサポートさせていただきます。

お忙しいところ誠に恐縮ですが、
何卒ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

【お問い合わせ先】
株式会社△△ 
環境対応担当:□□
TEL: XXX-XXXX-XXXX
Email: XXXX@XXXX

パターン2:簡潔版(既に関係性がある場合)

件名:CO₂排出量データご提供のお願い

○○株式会社
ご担当者様

お世話になっております。△△の□□です。

EU向け製品の新規制(CBAM)対応のため、
貴社製品のCO₂排出量データをご提供いただけますでしょうか。

■対象製品:[品名]
■必要データ:製品1kgあたりのCO₂排出量(kg-CO₂/kg)
■期限:○月○日
■記入シート:添付のExcel

記入例もつけておりますので、ご参照ください。

ご不明点あればお気軽にご連絡ください。
よろしくお願いいたします。

ポイント解説

1. 背景を説明する

  • 「なぜ必要か」を明確に
  • 法規制であることを伝える
  • 「あなただけじゃない」と理解してもらう

2. 具体的に依頼する

  • どの製品について
  • どんなデータが必要か
  • いつまでに
  • どうやって提出するか

3. 負担を減らす

  • 記入用シート添付
  • 記入例提示
  • FAQ用意
  • サポート窓口明記

4. 丁寧だけど、軽すぎない

  • 「お願いベース」でも、重要性は伝える
  • 期限は明確に

協力してもらうコツ:7つのポイント

コツ1:タイミングを選ぶ

避けるべき時期:

  • 決算期
  • 繁忙期
  • 大型連休前

良いタイミング:

  • 通常発注のついで
  • 定期会議の場
  • 余裕がありそうな時期

コツ2:段階的に依頼

一度に全部はNG。

ステップ1: 主要3社だけ

ステップ2: 追加5社

ステップ3: 残り全部

最初の3社で「やり方」を確立してから拡大。

コツ3:「みんなやってます」を伝える

「業界全体の動きです」

「他社様も対応されています」

「避けられない流れです」

孤立感を持たせない。

コツ4:Win-Winを示す

サプライヤーにとってのメリット:

  • 自社の環境対応力が上がる
  • 他の取引先からも求められる時に対応できる
  • 今のうちに体制を作れば、後が楽

「あなたのためでもあります」

コツ5:小さく始める

最初は「概算でOK」と伝える。

「正確な数字は後からでも大丈夫です」 「まずは大まかな把握から」

ハードルを下げる。

コツ6:感謝を伝える

データをもらったら:

  • すぐにお礼の連絡
  • 進捗を報告
  • 「助かりました」を伝える

次回も協力してもらうため。

コツ7:対価を検討する

無償が当然ではない。

検討すべきこと:

  • データ提供に対する手数料
  • 次回発注での優遇
  • 技術サポートの提供

相手の工数を尊重する姿勢。


拒否された時の対処法

「できません」と言われた。

どうしますか?

対処法1:理由を聞く

まず、なぜできないのか確認。

よくある理由:

  • やり方がわからない
  • データがない
  • 時間がない
  • 優先度が低い

理由によって、対応が変わります。

対処法2:「一緒にやりましょう」提案

やり方がわからない場合:

「弊社でサポートします」

「記入例を一緒に見ながら」

「電話で説明させてください」

手を差し伸べる。

対処法3:段階的な依頼に変更

時間がない場合:

「まずは電力使用量だけでも」

「概算値でも構いません」

「来月でも大丈夫です」

要求水準を下げる。

対処法4:業界団体の情報を提供

「業界団体でガイドラインが出ています」

「同業他社の事例があります」

「こちらの資料をご参照ください」

「あなただけじゃない」を示す。

対処法5:上位者に相談

どうしても進まない場合:

営業部門と相談して:

  • 営業担当から話してもらう
  • 経営層から依頼してもらう
  • 定期会議の議題にする

組織的に動く。

対処法6:代替手段を使う

最終手段:

サプライヤーからデータが得られない場合:

  • 業界平均値を使う
  • 類似製品のデータで代用
  • EU公表のデフォルト値を使う

ただし:

  • 精度は落ちる
  • コストが高くなる可能性
  • 将来的には実測値が必要

一時的な対応として。

対処法7:取引の見直し

極端なケース:

どうしても協力してもらえず、 他に代替サプライヤーがいる場合:

取引先の変更も検討。

厳しい判断ですが、2026年以降は: 「環境データを出せないサプライヤー = 取引継続困難」

になる可能性があります。


よくある質問と回答

Q1:「そんなデータ、持ってません」と言われた

A:一緒に計算する提案を。

「電気代の明細はありますか?」

「それだけでも、おおよその計算ができます」

「弊社でサポートしますので」

ゼロから一緒に作る。

Q2:「有料になります」と言われた

A:金額によっては支払いを検討。

妥当な範囲(数万円程度)なら:

  • 支払いを検討
  • 次回発注で調整
  • 他の形で還元

無償が当然ではない。

Q3:「他社からも同じ依頼が来て困ってる」

A:業界で統一フォーマットを。

「業界団体で共通フォーマットを作れませんか?」

「一度作れば、使い回せます」

「弊社も協力します」

業界全体で効率化。

Q4:「精度に自信がない」と言われた

A:「概算でOK」と伝える。

「完璧でなくて大丈夫です」

「まずは把握することが大事です」

「後から精度を上げていきましょう」

ハードルを下げる。

Q5:小規模サプライヤーが多くて大変

A:主要なところから優先。

パレートの法則(80:20):

  • 購入額の80%を占める20%のサプライヤー
  • まずそこだけでもOK

段階的に拡大。


サプライヤー向け記入シート:そのままコピペして使えます

以下の表をコピーして、Excelに貼り付けてお使いください。

【基本情報】

項目記入欄
貴社名
ご担当者名
連絡先(Email)
製品名・型番
報告単位□ 1kg あたり □ 1個あたり □ その他(   )
報告期間20__年__月〜20__年__月

【CO₂排出量データ】

項目数値単位
Scope1(直接排出)※1kg-CO₂/単位
Scope2(電力等の間接排出)※2kg-CO₂/単位
合計kg-CO₂/単位

※1 Scope1:工場で燃料を燃やす、製造プロセスで出るCO₂など
※2 Scope2:購入した電力・熱・蒸気を使うことで出るCO₂

【計算根拠(わかる範囲で結構です)】

項目記入欄
主なエネルギー源□ 電力 □ ガス □ 重油 □ その他(   )
使用した排出係数□ 環境省DB □ 業界標準値 □ 自社実測値 □ その他(   )
計算方法□ 概算(推定値) □ 実測値
算定範囲□ 自社工場のみ □ 原材料含む □ その他(   )

【備考】

項目記入欄
データの精度□ 高(実測値・検証済み) □ 中(概算・未検証) □ 低(推定値)
今後の対応予定□ 精度向上予定 □ 第三者検証取得予定 □ 現状維持 □ 未定
不明点・質問
その他特記事項

【記入例:参考にしてください】

基本情報:

  • 貴社名:○○製作所
  • 製品名:鋼材(SS400)
  • 報告単位:1kg あたり
  • 報告期間:2024年1月〜12月

CO₂排出量データ:

  • Scope1:0.5 kg-CO₂/kg
  • Scope2:1.1 kg-CO₂/kg
  • 合計:1.6 kg-CO₂/kg

計算根拠:

  • 主なエネルギー源:電力、ガス
  • 使用した排出係数:環境省DB
  • 計算方法:概算(推定値)

ポイント:

  • わからない項目は空欄でもOK
  • 概算値で結構です
  • ご不明点はお気軽にご連絡ください

このシートをExcelにコピペして、サプライヤーに送付できます。


まとめ:サプライヤー連携の心得

長くなりましたが、要点をまとめます。

依頼する前に

□ 自社の状況を整理

□ 必要なデータを絞る

□ 記入シートを用意

□ 社内合意を取る

依頼するときに

□ 背景を丁寧に説明

□ 具体的に依頼

□ 負担を減らす工夫

□ サポート窓口を明記

協力してもらうために

□ タイミングを選ぶ

□ 段階的に依頼

□ Win-Winを示す

□ 感謝を伝える

拒否されたら

□ 理由を聞く

□ 一緒にやる提案

□ 要求水準を下げる

□ 代替手段を検討

最も大事なこと

「お互い様」の精神。

  • あなたも取引先から同じことを求められる
  • サプライヤーも他社から求められる
  • 業界全体で協力する姿勢

一社だけでは解決できない。


次回予告

次回は、データが集まった後の話:

「第三者検証って何?どうすればいい?」

  • 第三者検証が必要な理由
  • どこに頼めばいいのか
  • 費用はいくらかかるのか
  • 準備すべきこと

CBAM対応の最終段階を解説します。


※この記事は、学びながら発信しています。実際の経験談や、「こうしたらうまくいった」という事例があれば、ぜひ共有していただけると嬉しいです。

mako

💚日本でも気候変動の災害が多く起き始めた昨今。少しでも自分にできる事はないかと思い、エシカル知識の収集とアウトプットを行っています。みんなで生きていける地球にしたいですね。
・エシカルコンシェルジュ受講中

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